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健康コラム

2016年11月14日 月曜日

痔のおはなし

・ 痔ってどんな病気?
肛門の周囲にできた疾患をまとめて痔といいます。特に、内痔核(いぼ痔)、裂肛(きれ痔)、痔ろうの3つは頻度の多さから「3大痔疾患」と言われています。

・ 他の動物には痔はない?
痔は人間特有の病気であり、他の動物にはほとんど発生しないと言われていますが、なぜでしょうか?
その答えは人間の進化の過程にあります。もともと人間は他の動物と同じように4本足で歩行していましたが、進化に伴って2本足で歩くようになりました。その場合、肛門付近の血液は重力に引かれるためうっ血しやすい状態になります。そこに、長時間の立ち仕事や便秘を繰り返すことなどで肛門に強い力が幾度もかかり、肛門の血管が腫れたり切れたりして痔になるわけです。

・ 「3人寄れば痔主が一人」
以前ある製薬メーカーが成人男女に対面アンケート調査をしたところ、約36%の人が「自分は痔の気がある」と答えたそうです。このことから3人が集まればそのうち1人は痔持ちであると言われています。

・ 痔と人間とのかかわり -あの人も痔だった-
人間と痔とのかかわりは古く、紀元前2500年頃にはエジプト宮廷に肛門医が存在していたとの記録があります。また「目には目を、歯には歯を」で有名な古代バビロニアのハムラビ法典には痔の治療代の取り決めに関しての記載があり1)、太古の時代から人間は痔とかかわっていたことが伺えます。
他にも、痔は歴史上の有名人物も悩ませました。ブルボン王朝の最盛期を築いたルイ14世は国内外に大いなる威光を示し太陽王とも称されましたが、同時に酷い痔瘻に悩まされており48歳のときに手術を受けています1)。黄熱病の研究で知られる野口英世も、恩師にあてた手紙で「昨年十月頃より痔をなやみ夜分も安眠を不得、月を追うて重り行く傾向有之候。(昨年10月ごろから痔がひどく夜も眠れない。徐々にひどくなる。)」と書きしたためています2)。



・ 痔を予防するために
痔は高血圧などと同じく生活習慣病といわれています。長時間の立ち仕事、便意を我慢する、排便時の過度のいきみなどはすべて肛門に負担がかかり痔になりやすくなります。このような生活習慣が思い当たる場合は見直してみましょう。

・ 痔の治療
すでにできてしまった痔に対しては治療が必要となります。
痔の種類によって治療法が異なりますが、内痔核(いぼ痔)の場合、症状が軽ければ坐薬などの薬物療法が主体となります。症状が進行した場合は手術治療となりますが、最近は薬剤を注入することで痔核の縮小をはかる硬化療法(ALTA法)なども登場し、以前よりも体への負担が少ない治療が行われるようになってきました。

・最後に
肛門の診察は恥ずかしさが先に立ってしまい、受診をためらいがちになります。しかし、痔から大腸癌や肝硬変などの重篤な内臓疾患が見つかることもあります。おしりの周囲に違和感があれば必ず専門医の診察を受けることが重要です。


参考文献:
1) ジャン ゴルダン・オリヴィエ マルティ(2003)『お尻とその穴の文化史』作品社.
2) 立川昭二(2002)『病いの人間』新潮社.

投稿
神戸医療センター 消化器外科 田上修司