健康コラム
2019年2月 4日 月曜日
お酒(アルコール)のおはなし
忘年会、お正月、新年会とおいしいお酒を召し上がった方も多いと思います。しかし中には飲み過ぎて後悔された方もおられるのではないでしょうか。今回はお酒と健康のおはなしです。「酒は百薬の長」とは言いますが、過度の飲酒は様々な病気(以下に述べる疾病の他に高血圧症、不整脈、糖尿病、アルコール依存症やうつ病なども)と関連していますので、場合によっては「万病のもと」となってしまいます。
まずお酒を飲むと酔うのは脳への影響です。著しい酩酊は昏睡だけでなく、誤嚥による窒息や事故などで死に至ることもあります。度を越した多量の飲酒や一気飲みなどはしてはいけません。さらに脳や神経への長期的な影響としては脳の萎縮、脳梗塞、シビレなどの末梢神経障害等があり、認知症との関連も考えられています。
つぎに肝臓はアルコールを代謝する臓器なので過度の飲酒により負担がかかり、その結果、脂肪肝、肝炎、肝硬変、肝癌などが引き起こされることとなります。日本酒換算で1日5合程度を1週間続けると脂肪肝が起こり、大量飲酒を繰り返すとアルコール性肝炎となります。個人差もありますが日本酒換算5合程度を20~30年(女性はその2/3の飲酒量で12~20年程度)で肝硬変となる場合が多くみられます。また常習飲酒者が大量の連続飲酒をした場合などに発症する急性アルコール性肝炎は命にかかわることもしばしばです。最近はお酒の強い女性も増えてきているようですが、女性は体や肝臓の大きさ、体脂肪、ホルモンの関係などでもともと男性よりアルコールの害を受けやすく、より少量のアルコールで依存症にもなりやすいといわれていますので、お酒の強い女性も注意が必要です。なお実際にアルコール性肝障害の女性が最近増加していて、今後女性のアルコール性肝硬変が急増するとの予測もあります。
また飲酒は、膵臓の酵素が活性化されて膵臓自身で炎症が起きてしまう急性あるいは慢性の膵炎(重症急性膵炎の死亡率は約10%)の原因となり、肝臓癌以外にも口腔癌、咽頭癌、食道癌、大腸癌、乳癌、膵癌などとの関連も報告されています。特にもともとお酒の弱い方(少しの飲酒ですぐに顔が赤くなるフラッシャーと呼ばれる方)が無理に飲酒をするようになると、アルコールの代謝物質であるアセトアルデヒドが多くなり食道癌の危険性が高まりますので要注意です。
さてアルコールの悪いことばかりおはなししてきましたが、食事の時など、家族や仕事仲間等との談笑しながらの飲酒は、食事をさらにおいしくし、疲れを癒し、ストレス解消や良好な人間関係を築く助けとなることも事実です。また過度のアルコール摂取で総死亡、心疾患死亡、脳梗塞死亡、癌死亡、糖尿病、自殺などのリスクは上昇しますが、適量の飲酒は総死亡、虚血性心疾患死亡、脳梗塞のリスクが低下するともいわれています。
では適量とはどれくらいなのでしょうか。基礎疾患などその方の健康状態にもよりますが、厚生労働省は「節度ある適度な飲酒」とは1日平均純エタノールで約20gとしています。これはだいたいビール500 mL、日本酒1合、ワイン200 mL、焼酎 100 mL、ウイスキー 60 mL程度で、女性や高齢者の方はより少量の飲酒が適当とされています。しかし適度のアルコール摂取でも高血圧症、脳出血およびくも膜下出血死亡のリスクは上昇するといわれており、前述の食道癌のリスクもありますので、飲めない方が無理やりお酒を飲んだ方が良いというわけではありません。
ふだん診療をしていると、休肝日を作っているから他の日にお酒を多く飲んでも大丈夫と思っている方や、ワインは健康に良いのでたくさん飲んでも大丈夫と思っている方が時々おられますが、どちらも勘違いをされています。休肝日を作ることは文字通り肝臓を休め、アルコール依存症を防ぐのにも良いことなのですが、休肝日を作っても他の日に過度の飲酒をすれば意味がないどころか逆効果ですし、ワインには健康に良いといわれるポリフェノールなども含まれていますが、過度の摂取はアルコールの悪影響が危惧されます。飲酒が多いかなと思われる方は、お近くの医療機関(内科)を受診して血液検査などをお受けください。
お酒(アルコール)を「百薬の長」とするか、「万病のもと」とするかはみなさま次第です。おいしく楽しいお酒を長く楽しめるように、上手にお酒と付き合っていただければと思います。
投稿
中川内科クリニック 院長 中川修史
まずお酒を飲むと酔うのは脳への影響です。著しい酩酊は昏睡だけでなく、誤嚥による窒息や事故などで死に至ることもあります。度を越した多量の飲酒や一気飲みなどはしてはいけません。さらに脳や神経への長期的な影響としては脳の萎縮、脳梗塞、シビレなどの末梢神経障害等があり、認知症との関連も考えられています。
つぎに肝臓はアルコールを代謝する臓器なので過度の飲酒により負担がかかり、その結果、脂肪肝、肝炎、肝硬変、肝癌などが引き起こされることとなります。日本酒換算で1日5合程度を1週間続けると脂肪肝が起こり、大量飲酒を繰り返すとアルコール性肝炎となります。個人差もありますが日本酒換算5合程度を20~30年(女性はその2/3の飲酒量で12~20年程度)で肝硬変となる場合が多くみられます。また常習飲酒者が大量の連続飲酒をした場合などに発症する急性アルコール性肝炎は命にかかわることもしばしばです。最近はお酒の強い女性も増えてきているようですが、女性は体や肝臓の大きさ、体脂肪、ホルモンの関係などでもともと男性よりアルコールの害を受けやすく、より少量のアルコールで依存症にもなりやすいといわれていますので、お酒の強い女性も注意が必要です。なお実際にアルコール性肝障害の女性が最近増加していて、今後女性のアルコール性肝硬変が急増するとの予測もあります。
また飲酒は、膵臓の酵素が活性化されて膵臓自身で炎症が起きてしまう急性あるいは慢性の膵炎(重症急性膵炎の死亡率は約10%)の原因となり、肝臓癌以外にも口腔癌、咽頭癌、食道癌、大腸癌、乳癌、膵癌などとの関連も報告されています。特にもともとお酒の弱い方(少しの飲酒ですぐに顔が赤くなるフラッシャーと呼ばれる方)が無理に飲酒をするようになると、アルコールの代謝物質であるアセトアルデヒドが多くなり食道癌の危険性が高まりますので要注意です。
さてアルコールの悪いことばかりおはなししてきましたが、食事の時など、家族や仕事仲間等との談笑しながらの飲酒は、食事をさらにおいしくし、疲れを癒し、ストレス解消や良好な人間関係を築く助けとなることも事実です。また過度のアルコール摂取で総死亡、心疾患死亡、脳梗塞死亡、癌死亡、糖尿病、自殺などのリスクは上昇しますが、適量の飲酒は総死亡、虚血性心疾患死亡、脳梗塞のリスクが低下するともいわれています。
では適量とはどれくらいなのでしょうか。基礎疾患などその方の健康状態にもよりますが、厚生労働省は「節度ある適度な飲酒」とは1日平均純エタノールで約20gとしています。これはだいたいビール500 mL、日本酒1合、ワイン200 mL、焼酎 100 mL、ウイスキー 60 mL程度で、女性や高齢者の方はより少量の飲酒が適当とされています。しかし適度のアルコール摂取でも高血圧症、脳出血およびくも膜下出血死亡のリスクは上昇するといわれており、前述の食道癌のリスクもありますので、飲めない方が無理やりお酒を飲んだ方が良いというわけではありません。
ふだん診療をしていると、休肝日を作っているから他の日にお酒を多く飲んでも大丈夫と思っている方や、ワインは健康に良いのでたくさん飲んでも大丈夫と思っている方が時々おられますが、どちらも勘違いをされています。休肝日を作ることは文字通り肝臓を休め、アルコール依存症を防ぐのにも良いことなのですが、休肝日を作っても他の日に過度の飲酒をすれば意味がないどころか逆効果ですし、ワインには健康に良いといわれるポリフェノールなども含まれていますが、過度の摂取はアルコールの悪影響が危惧されます。飲酒が多いかなと思われる方は、お近くの医療機関(内科)を受診して血液検査などをお受けください。
お酒(アルコール)を「百薬の長」とするか、「万病のもと」とするかはみなさま次第です。おいしく楽しいお酒を長く楽しめるように、上手にお酒と付き合っていただければと思います。
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中川内科クリニック 院長 中川修史